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中倉一志

Author:中倉一志
Jリーグ登録フリーランスライター
福岡に住み、アビスパ福岡をはじめ九州のサッカーを中心に取材活動を続けている。「サッカー」と名前さえつけば、どんなカテゴリーでも見ることを信条としている。

[掲載媒体・出演番組等]
 KBC(九州朝日放送)テレビ・ラジオ
 天神FM「バモス・アビスパ」
 週間「サッカーマガジン」
 サッカー専門新聞「EL GOLAZO」
 アビスパ福岡イヤーブック
 Jリーグファンサイト「J's GOAL」
 sports navi「コラムコーナー」
 online magazine 2002world.com
 他、多数

お仕事のご依頼がございましたら、是非お声かけ下さい >>> mail to



 

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戦い方の変化の裏にあるものは 鳥栖vs.広島
080518_鳥栖スタジアム

 岸野康之監督も、そして選手たちも、まるで大敗したかのような表情を浮かべていました。J2第13節の鳥栖vs.広島戦。スコアこそ0−1でしたが、内容は広島の完勝。憎らしいほどの強さとしたたかさを見せて勝点3を奪っていきました。「よくトレーニングされたチーム。非常にゲームの進め方が上手いし、全然慌てない。サッカーをよく知っているなという感じが強い。そつがないし、気が利いている」。岸野監督は広島の強さを、そう話しました。

 鳥栖にとっての広島戦は、真正面からぶつかることで自らの位置を確かめる重要な試合でした。チームの狙いは、「ボールにいけるときは前から奪いにいく。そうじゃない時はブロックを作って守る」というもの。ある程度、引いて守ることを前提として、いつ、どうやって高い位置からボールを奪いに行くかがポイントでした。しかし、広島はそれをさせてくれません。前に出て行く機会を見つけられない鳥栖は、低い位置にとどまったまま、広島のパス回しに振り回される結果になりました。

 岸野監督によれば、そういうパターンになるのも想定済み。引いて守る形になっても無失点で凌ぎ、どこかで1点をという狙いでした。そういう意味では、一方的に押され続けたとは言え、前半を終えて0−0のスコアは、鳥栖にとってはOKとも言えるものでした。しかし、広島は強かった。攻めながらもゴールが奪えない展開にも少しも焦ることなく、淡々と自分たちのやるべきことをやり続けました。普通なら気負ってバランスを崩すもの。しかし、そうはならないのが広島の強さなのでしょう。

 鳥栖には、結果を恐れることなく、いつものようにチャレンジ精神旺盛に前から追いかけるという選択肢もあったと思います。それが鳥栖のこれまでの戦い方だったからです。しかし、鳥栖は自分たちの戦い方に変更を加えて勝点を取りに行きました。もちろん、広島との力の差を考えてという理由もありましたが、その背景には、戦い方によっては3位以上の成績を掴むことが出来るという具体的な手応えがあったように思います。だからこそのスタイルの変更だったと感じました。

 自分たちの力の全てを出すというスタイルから、相手に合わせた戦術を取りながら勝点を稼ぐスタイルへの変更。それは実力が付いたことに併せて、背負うものが多くなったことを意味するもので、鳥栖にとっての新たな挑戦が始まったと言えるものだと思います。それは今まで以上に難しい戦い。しかし、いつかは対峙しなければいけない壁。その壁をどうやって乗り越えていくか。それが成長し続ける鳥栖の新たな挑戦目標になったように思います。


ニンジニアスタジアムでの試合で
開場を待つニンジニアスタジアム

 週末は取材仲間と車をチャーターして四国横断取材旅行の旅へ出かけていました。5日未明に福岡を出て、「瀬戸内しまなみ街道」の周りに広がる風景を楽しみ、四国の山々に広がる満開の桜を満喫。飛行機で行く遠征とは違った気分を味わいながらの道中となりました。途中でゆっくりと休憩をはさんで8時間の旅。たまには、こういう移動も楽しいものです。アウェーで取材する試合は格別なものがありますが、そこへ行くまでの道のりもまた楽しいものです。

 さて、初日の愛媛vs.鳥栖は1−2で鳥栖が勝利しましたが、鳥栖にとっては課題を残す内容だったように思います。主導権を握って試合を進めながらも、運動量は少なく、ミスは多く。試合展開も前節の熊本戦同様、要所を締めきれないことで最後まで愛媛に反撃の余地を許すなど、今後の戦いに不安が残る面もみられました。しかし、それでも勝ち点を奪うのが今シーズンの鳥栖の粘り強さ。課題のある戦いも、昨シーズンまでとは違うチームであることを改めて感じました。

 この試合で個人的に注目していたのは谷口堅三でした。入団2年目の若干19歳のFW。アミーゴス鹿児島出身で、U-16日本代表候補に選出された経験を持つ選手です。第2節のC大阪戦ではワールドクラスのゴールを決めて勝利に大きく貢献しましたが、この試合でも勝負を決定づける2点目をゲット。荒削りではありますが、堂々とした態度と、ゴールを狙う姿勢、そして、ボディバランスの良さは、これからが大いに楽しみな選手であることを確信させてくれました。

 試合後に話を聞きましたが、チーム戦術や自分の役割、そして自分のプレーについて、自分の言葉で明確に説明する態度は19歳とは思えませんでした。そして、言葉の端々からは、サッカーにも、周りの人間にも、真摯に接していることが伝わってきました。この日のゴールに対するコメントを求めると、「あの2点目は、その前にボールを奪ってくれた人がいて、それを拓馬さん(日高)に出してくれた人がいて、拓馬さんが滑りながらも折り返してくれました。あとは決めるだけだったので、そういう人たちがいてくれたからのゴールだったと思います」と答えてくれました。

 プロスポーツ界で成功を収めるためには、技術、体力が高いレベルにあるだけでは足りません。コミュニケーションスポーツの代表であるサッカーでは、選手の人間性がプレーヤーとしての成否に大きくかかわってきます。自分を客観的に知り、自分を生かしてくれる環境へのありがたさを忘れず、常に前向きな姿勢と向上心を持ち、どんなことにも真摯に向きあえること。それがプロとしての成功の必要条件です。鳥栖はいい選手を育てているなと感じました。


今年のJ2
さて、今年のJ2はどんな展開を見せるのか

 せっせと開幕からの35試合のビデオチェックをしていますが、なかなかリアルタイムに追いつきません。予定では今日中に全35試合のチェックが終わるはずだったのですが、原稿があったり、突然の野暮用ができたり、飲み会のお誘いがあったり、それに花見もしたいし(汗)・・・。そんなわけで、DVDレコーダーと格闘する毎日が続いています。予定では来週の中頃にはリアルタイムに追いつく予定。でも予定は未定であって決定ではないし・・・。いやいや、必ず現実に追いつきます(汗)。

 さて、どこが勝つのか最後まで分からないというJ2の傾向は今年も同じ。それどころか、例年以上に混戦になりそうな気配が漂っています。この傾向は毎年感じていることではありますが、その混戦ぶりは年を重ねるごとに激しくなっているようにも思います。99年にJ2が開幕した時には、上位チームにとっては計算できるカードが数多く存在していたのですが、現在では地力の差はありつつも、星勘定ができるチームは全く存在しなくなりました。

 その中で、今シーズンは新たな傾向が見られるように思います。最大の変化は引いて守るチームが、ほとんどいなくなったということ。徳島、水戸、草津、愛媛と、昨年度は下位に甘んじたチームも、今年はパスをつないでビルドアップするアグレッシブなサッカーを展開するチームに変わっています。しかも、前に出る力とレベルは、上位チームにかなり近づいている印象があります。守備面や、メンタル面に課題も抱えてはいますが、それでも、上位チームにとっては侮れないチームが増えたように思います。

 チームとしての強さを感じるのは広島。個人の能力で抜けているのはシーズン前から知られていたことですが、守備意識を高くして徹底的に勝ちにこだわっている姿勢が、現段階では際立った強さを発揮することにつながっています。そして横浜FC。やや引いた布陣を敷いて人数をかけて守りを固め、ボールを奪ったらアンデルソンに預けて攻撃を任せるというスタイルは、昨年までのJ2スタンダード。J2全体のスタイルが変わる中で、その戦い方がどんな結果を残すのか。非常に興味深いところです。

 最も警戒すべきは鳥栖。おごることもなく、そして卑下することもなく、自分たちの力を客観的、かつ正確に把握するチームは、足りないものをカバーし、そして強みを発揮するために、自分たちがいつ、どこで、何をすればいいのかを本当によく知っています。松本前監督(現GM)、岸野監督が二人三脚で指導して3年目を迎えるチームは、ひとつも、ふたつも戦うレベルを上げているように思います。

 今までとは違った形でデッドヒートを繰り広げそうなJ2の2008年シーズン。ここまでを見る限り、サッカーファンにとっては、たまらなく面白いシーズンになりそうな予感がします。